# ヒンドサイトバイアス
## 定義
ヒンドサイトバイアス(Hindsight Bias / 後知恵バイアス)とは、ある出来事の**結果を知っていること**が、その出来事が起きる前の当事者の視点を事後的に再現することを困難にする認知的バイアスを指す。
[[Richard I. Cook]] の定式化([[@1998__CtL__How Complex Systems Fail]] 命題 8):
> 結果知識は、事故前の実践者が同一の要因をどのように見ていたかを、事後的な観察者が再現する能力を損なう。実践者は「その要因が必然的に事故に至ることを知っていたはずだ」と見なされる。ヒンドサイトバイアスは事故調査——特に熟練した人間のパフォーマンスが関与する場合——の主要な障害として残り続ける。
Cook は注記で「これは医学的・技術的判断の問題ではなく、過去の出来事とその原因に関するすべての人間の認知の問題」と強調する。
## 横断的知見
- **根本原因分析との相互作用**: ヒンドサイトバイアスは [[根本原因分析]](RCA) の信頼性を根本的に損なう。Cook 命題 7(根本原因帰属は根本的に誤り)とセットで読むと、事後の RCA は「技術的に誤った前提(単一原因)+ 認知的に歪んだプロセス(ヒンドサイトバイアス)」の二重の問題を抱えることになる。(Source: [[@1998__CtL__How Complex Systems Fail]])
- **LLM-based RCA との関係**: [[LLMによる根本原因分析]] は事後ログ・アラートデータを入力とするが、これらのデータは既に「障害が起きた」という結果知識を含む形でモデルに提示される。LLM がヒンドサイトバイアスを模倣・強化するリスクは未検討の問いとして残る。
- **スパイク検知と非対称設計**: [[アラート相関]](LinkedIn SREcon21)で「偽陰性(真のアラートをスパイクと誤判定)は絶対に許容しない」という非対称な設計方針は、アラート調査においてヒンドサイトバイアスを意識した判断設計の一例——「事後に見ると見逃しは明らかだった」という批判を避けるための保守的閾値設定。(Source: [[@2021__SREcon21__Spike Detection in Alert Correlation at LinkedIn]])
## 未解決の問い
- AI/LLM エージェントが事後データからインシデント分析を行う際、ヒンドサイトバイアスと同等・類似の歪みが生じるか——もしそうなら、その緩和手法は何か。
- インシデント調査を「事前視点」と「事後視点」に分離するプロセス設計は、バイアスをどの程度軽減できるか(例: タイムラインの順方向再構築 vs. 逆算的因果推論)。
- Cook の「ヒンドサイトバイアスは事故調査の主要障害」という主張は、AIOps のベンチマーク設計(評価者が障害結果を知った状態でモデルを評価する)にも適用されるか。
## 関連
- ソース: [[@1998__CtL__How Complex Systems Fail]]
- 概念: [[複雑システム障害論]] / [[根本原因分析]] / [[LLMによる根本原因分析]] / [[アラート相関]]
- 実体: [[Richard I. Cook]]
- 関連 MOC: [[SRE - MOC]]
## 出典
- [[@1998__CtL__How Complex Systems Fail]](Cook 1998, CtL; 命題 8)