# ソフトウェア危機
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## 定義
ソフトウェア危機(software crisis)とは、1960年代末に顕在化した、ソフトウェア生産の需要拡大に生産能力・品質保証手段が追いつかないという認識を指す用語。1968年の NATO Garmisch 会議はこの危機への対応として「ソフトウェアエンジニアリング」という語を意図的に流通させた場である。[[F.L. Bauer]] は IFIP 71 での報告で当時の共通認識を「既存のソフトウェア生産はアマチュアによる」「場当たり的な試行錯誤か『人海(million monkey)』方式」「信頼性が低く恒常的な『保守』を要する」「乱雑で透明性を欠く」「期待より遅く高コストで約束された機能を満たさない」という不満リストに要約した。(Source: [[@1990__CWIQuarterly__The Roots of Software Engineering]] §5)
## 横断的知見
- 現時点では [[@1990__CWIQuarterly__The Roots of Software Engineering]] のみが本概念を直接論じるソースであり、複数ソースを突き合わせた横断的知見はまだ蓄積されていない。
- Mahoney が引用する R.W. Floyd の1978年チューリング賞講演(Robert Balzer の言葉を借用)は、NATO会議から10年後もソフトウェアが「信頼性が低く、届くのが遅く、変化に無反応で、非効率で、高価」という同じ状態にあり続けていたことを示し、Floyd はこれを「危機」ではなく「不況(depression)」と呼び直した ── 一時的な危機ではなく慢性的な定常状態への認識の転換として記録されている。(Source: [[@1990__CWIQuarterly__The Roots of Software Engineering]] §7)
## 未解決の問い
- 「ソフトウェア危機」の語がいつ「レガシーシステム問題」「技術的負債」など別の語に置き換わっていったか、あるいは今日まで同じ語のまま使われ続けているか。
- Boehm 1976([[@1976__IEEE-TC__Software Engineering]])のデータ(需要成長率21–23%/年 対 供給成長率11.5–17%/年)は、Bauer 1971 の不満リストが挙げる「量」の危機を定量的に裏づけるが、Bauer が挙げる「質」の危機(信頼性・透明性)についても同様の定量的裏づけがあるか。
## 関連
- source: [[@1990__CWIQuarterly__The Roots of Software Engineering]]
- entity: [[F.L. Bauer]] / [[Michael S. Mahoney]] / [[Brian Randell]]
- concept: [[ソフトウェア工学の起源]](本概念の成立を導いた歴史的分析)
## 出典
- Michael S. Mahoney, "The Roots of Software Engineering", *CWI Quarterly* 3, 4 (1990), 325–334.