# クラウドコンピューティング ## 定義 クラウドコンピューティング(Cloud Computing)は、インターネット経由でサービスとして提供されるアプリケーション(Software as a Service, SaaS)と、それらのサービスを提供するデータセンターのハードウェア・システムソフトウェア(Cloud)の総称である。Cloud が従量課金の形で一般公衆に提供される場合を Public Cloud と呼び、そこで販売されるサービスを Utility Computing と呼ぶ。組織内部にとどまり一般公衆に提供されないデータセンターは Private Cloud と呼ばれ、クラウドコンピューティングの定義には含まれない。ハードウェアの観点からは、(1) 需要に応じて利用可能な無限のコンピューティング資源という幻影、(2) ユーザによる事前コミットメントの排除、(3) 短期的な基準での従量課金と資源の解放、という3つの性質の組み合わせが本質的な新規性である。(Source: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]]) クラウドコンピューティングの経済的な核心は elasticity によるリスク移転にある。需要予測が外れた場合の過剰プロビジョニング(資源の無駄)・過小プロビジョニング(機会損失とユーザ離脱)の両方のリスクを、サービス運用者からクラウドベンダー側へ転嫁できる点が、単純な「CapEx から OpEx への転換」以上の本質的なメリットである。(Source: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]]) ## 横断的知見 - **2009 年時点で予見された「大規模分散システムのデバッグ困難性」という障害は、2020 年代の障害ライフサイクル定量化研究によって具体的な数値として実証されている**: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]] は普及障害トップ10の第7位に「Bugs in Large-Scale Distributed Systems」を挙げ、これらのバグは小規模構成では再現できず本番データセンターでのデバッグを要すると指摘したが、具体的な解決策は「VM への依拠がデバッグを可能にするかもしれない」という短い示唆にとどまった。15 年以上後の [[クラウド障害ライフサイクル]] 概念(354 件のポストモーテム分析)は、この問題を TTD(検知)・TTI(特定)・TTM(緩和)という定量的な指標に分解し、緩和フェーズが解決時間の 53% を占めるという具体的な律速要因を特定した。2009 年の position paper が定性的に指摘した課題が、2020 年代の実証研究によって定量的なライフサイクルモデルへと発展した構造が見える。(Source: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]]) - **VM 間の I/O 性能干渉という 2009 年の実測は、後年の「性能の予測不可能性」問題の初期の定量的証拠である**: 論文は 75 台の EC2 インスタンスで STREAM メモリベンチマークとディスク書き込みベンチマークを実測し、メモリは変動係数 4% 未満と安定する一方、ディスク書き込みは変動係数 16% 超とばらつくことを示した。これは「マルチテナンシー下での性能干渉」という、後のクラウド信頼性研究群([[クラウドインシデント]] 等)が扱う問題設定の初期の実証的観測にあたる。(Source: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]]) ## 未解決の問い - 2009 年時点の経済モデル(usage-based pricing・広告収益比例モデルを前提とした elasticity のリスク移転)は、リザーブドインスタンス・スポットインスタンス・サーバレス課金など、その後多様化した料金体系のもとでどう再定式化されるか。 - 論文が楽観視した「データ機密性・監査可能性は暗号化/VLAN/ファイアウォールで本質的な障害ではない」という主張は、その後のクラウドセキュリティインシデントの蓄積を踏まえると成立し続けているか。 - Obstacle 7(大規模分散システムのバグ)への「VM への依拠がデバッグを可能にするかもしれない」という 2009 年の示唆は、[[クラウド障害ライフサイクル]]・[[クラウドインシデント]] が集約する 2020 年代の実証研究群とどう接続するか。両者を統一的に扱う横断的な理解はまだ本 wiki に蓄積されていない。 ## 関連 - ソース: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]] - 概念: [[クラウド障害ライフサイクル]] / [[クラウドインシデント]] / [[クラウドインフラ障害診断]] / [[クラウドモニタリング]] - エンティティ: [[Amazon Web Services]] / [[Microsoft Azure]] / [[Google AppEngine]] / [[University of California, Berkeley]] ## 出典 - [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]](§1 Executive Summary・§3 What is Cloud Computing・§6 Cloud Computing Economics・§7 Top 10 Obstacles and Opportunities)