溶融石英(fused silica / クォーツガラス)を記録媒体とするデータストレージ技術。フェムト秒レーザーでガラス内部に voxel(永続的物理変化)を書き込み、偏光顕微鏡で読み出す。1000 年超の媒体寿命を持ち、ビット腐敗が生じない。
## 動作原理
**書き込み(フェムト秒レーザー)**:
- パルス幅 ≈10^-15 秒の高出力レーザーパルスをガラス内部に集束
- レーザーの偏光方向とパルスエネルギーを変調し、1 voxel あたり 3〜4 ビットを形式複屈折(form birefringence)として符号化
- XY 平面に 2D レイヤーを形成、Z 軸に 100 層以上積み重ねて 3D データを格納
- ガラスプラッター 1 枚で複数テラバイトのユーザーデータを格納可能
**読み出し(偏光顕微鏡)**:
- 偏光光線を目的の voxel 層に集束し、返射電場をカメラセンサーで撮像
- 画像を機械学習デコーダ(U-Net ベース)でデジタルデータに変換
- 読み出し光はガラス構造を変化させないため、バグある/悪意あるリードでもデータを破損不能
**媒体特性**:
- **WORM**(Write-Once-Read-Many): 書き込んだデータは物理的に変更不能
- **耐久性**: 化学的に不活性、温度・湿度・電磁干渉に強い。データ構造の寿命 1000 年超
- **ビット腐敗なし**: スクラビングが不要
- **低コスト媒体**: 原料はシリコン砂、大規模製造が可能
## システム上の特徴(Project Silica)
[[Project Silica]] は、ガラス媒体の特性を活かして以下を実現する:
- スクラビング・ガベージコレクション・リフレッシュサイクルの排除
- 保管ラックは電力・冷却不要(能動部品なし)
- 書き込みドライブと読み出しドライブで異なる技術を使用し独立スケール可能
- 物理的エアギャップ(書き込み済みプラッターを書き込みドライブに戻せない)
## 横断的知見
- 石英ガラスストレージの現実上の課題はフェムト秒レーザーの量産コスト。読み出しに使う偏光顕微鏡はすでにコモディティ化。Silica のコスト構造は将来の普及度に依存して変化する
- DNA ストレージ([[@2023__SOSP__Project Silica - Towards Sustainable Cloud Archival Storage in Glass]]が関連研究として言及)は合成・シーケンスコストがネックで実用規模は MBs 程度。石英ガラスはシステムスケールと密度の点で先行
- ホログラフィックストレージや従来光ディスク(Blu-ray 等)は体積密度が不足しテープと競合不可。石英ガラスは早期世代でも磁気テープより高い mm^3 密度を実現見込み
## 未解決の問い
- フェムト秒レーザーのコモディティ化はいつ起きるか、また Silica 普及によるフィードバックの速度
- ガラスプラッターの製造スケールアップ(歩留まり・品質均一性)における工学的課題
- 読み出しにおける ML デコーダのモデル汎化性(媒体バッチ間のバラつきへの対応)
- ファイルフォーマット・符号化方式の陳腐化に対する長期保存の解決策