# オペレーショナル法則
## 定義
オペレーショナル法則(operational laws)は、到着過程やサービス時間の確率分布に一切の仮定を置かず、有限の観測期間中に直接測定できる量(オペレーショナル量)どうしの定義関係だけから成り立つ関係式である。Buzen(1976)によって最初に体系化され、Denning and Buzen(1978)によって拡張された。「オペレーショナル」とは「直接測定される」という意味であり、オペレーショナルに検証可能な仮定とは測定によって真偽を確かめられる仮定を指す。たとえば装置への到着数と完了数が等しいというジョブフローバランスの仮定は観測によって検証できるためオペレーショナルに検証可能だが、観測されたサービス時間の列が独立同一分布の確率変数であるという仮定は測定だけでは真偽を確かめられないためオペレーショナルに検証可能ではない。観測期間 $T$ における装置 $i$ の到着数 $A_i$・完了数 $C_i$・ビジー時間 $B_i$ がオペレーショナル量の基本形であり、そこから使用率 $U_i=B_i/T$・スループット $X_i=C_i/T$・平均サービス時間 $S_i=B_i/C_i$ が導かれる。これらの値は観測期間ごとに変動するが、期間内で常に成り立つ恒等式が存在し、それがオペレーショナル法則である。
代表的な法則は次の5つである。(1) **使用率の法則**: 装置の使用率はその装置のスループットとサービス時間の積に等しい($U_i=X_iS_i$)。(2) **強制フローの法則**: 装置のスループットはシステムスループットと訪問比率(訪問比率 $V_i$、1ジョブがシステム通過中にその装置を訪問する回数)の積に等しい($X_i=XV_i$)。両者を組み合わせると $U_i=XD_i$($D_i=V_iS_i$ はジョブ1件あたりの総サービス需要)が得られ、需要 $D_i$ が最大の装置がボトルネック装置になる。(3) **リトルの法則**: 装置の平均系内客数はスループットと平均応答時間の積に等しい($Q_i=X_iR_i$)。(4) **一般応答時間の法則**: システム応答時間は各装置の訪問回数と応答時間の積の総和に等しい($R=\sum_i V_iR_i$)。(5) **対話型応答時間の法則**: 思考時間 $Z$ を持つ対話型システムでは、ユーザ数 $N$・システムスループット $X$・システム応答時間 $R$ の間に $R=N/X-Z$ が成り立つ。これら5法則を組み合わせたボトルネック解析は、各装置のサービス需要 $D_i$ だけからシステムスループット・応答時間の漸近的な上下界を導き、詳細な待ち行列モデルを解かずに容量の限界を見積もる手段を与える。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] §33.1-§33.6)
## 横断的知見
- **確率的な待ち行列モデル(第31章)とオペレーショナル法則(第33章)は、同じ記号($\rho$・$U_i$等)を使いながら異なる認識論的地位を持つ量を扱う**: 第31章のM/M/1は使用率 $\rho=\lambda/\mu$ を到着率・サービス率という確率過程のパラメータとして仮定し、そこから系内客数の分布・応答時間の期待値という確率的な帰結を導く。第33章の使用率の法則 $U_i=X_iS_i$ は同じ「使用率」という量を、観測期間中に実測される完了数とビジー時間だけから、分布の仮定なしに一意に定める恒等式として与える。したがって、オペレーショナル法則が与える $U_i$・$D_i$ は「今この瞬間、実測すれば必ずこの値になる」量であるのに対し、確率的待ち行列モデルが与える量は「特定の分布を仮定すればこう振る舞うはずだ」という予測である。両者は対立する道具ではなく、まずオペレーショナル法則で実測してボトルネックを特定し、挙動の詳細(待ち時間分布・パーセンタイル等)を知りたい場合にのみ確率モデルへ仮定を追加するという順序で組み合わせるのが自然である。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 31 Analysis of a Single Queue]] §31.2, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] §33.1)
- **オペレーショナル法則が要求する唯一の実質的な仮定(ジョブフローバランス)は、確率的待ち行列モデルが要求する仮定(分布の形)よりはるかに弱く、かつ測定によって検証可能である**: 第31章のM/M/1・M/M/mの結果はいずれも到着・サービス過程が指数分布に従うことを前提に成立するのに対し、第33章の強制フローの法則・一般応答時間の法則が要求するのは「観測期間中の到着数と完了数がほぼ等しい」というジョブフローバランスの仮定だけであり、これは観測によって直接検証できる。オペレーショナル法則の実務上の強みは、この検証可能性そのものにある——分布の仮定が現実に成り立っているかどうかを事前に確かめる術がない確率モデルと異なり、オペレーショナル法則は前提条件ごと実測で確認できる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 31 Analysis of a Single Queue]] §31.2, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] 冒頭, §33.2)
- **第34章の均衡ジョブ限界(balanced job bounds)は、下記の未解決の問いが指摘していた「漸近的上下界と厳密解の乖離」を数値としては埋めるが、乖離を支配する一般的な条件そのものは依然として示さない**: 均衡ジョブ限界は、第33章の片側漸近限界($D_{\max}$のみに基づく)に装置あたり平均需要 $D_{avg}=D/M$ をもう1つ追加するだけで、スループットの下界・応答時間の上界という反対側の限界を導き、上下界の幅(=乖離の上限)を $N$ の関数として計算できる形にする。例34.4(第33章の例33.7・33.8と同一の系、$D_{CPU}=2, D_A=3, D_B=1, Z=4$)では、$N=20$ で応答時間の上下界が56.000〜61.068、スループットの上下界が0.307〜0.333というように、乖離の大きさが具体的な数値として得られる。ただし、この幅がなぜこの大きさに収まるのか(乖離を支配する一般的な条件——装置数 $M$ や $D_{\max}/D_{avg}$ の比など)を解析的に特定する議論は第34章にもなく、乖離の大きさを支配する条件という問いの核心は依然として未解決である。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] §33.6, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 34 Mean-Value Analysis and Related Techniques]] §34.4)
- **第36章は、待ち行列理論全体の限界を列挙する36.3節の中で、オペレーショナル法則だけを名指しで例外とする**: 36.3節の1番目の限界(非指数分布のサービス時間)は「待ち行列ネットワークモデルに関する結果の大半は、オペレーショナル解析という明確な例外を除き、サービス時間が指数分布に従うことを仮定する必要がある」と明記する。これは、オペレーショナル法則が到着・サービス過程の分布に一切の仮定を置かないという性質(既出)が、単なる理論的な美点ではなく、本書が自ら列挙する適用限界のリストからオペレーショナル法則を唯一除外する実務的な理由になっていることを示す。ただし第36章はこの例外を明示するのみで、残る12の限界(トレイン到着・フォーク/ジョイン・ブロッキング・応答依存到着・キューからの離脱等)についてはオペレーショナル法則も対象外にはならないと明言はしていない——これらの限界の多くは分布の仮定ではなくジョブフローバランスや状態独立性といった、オペレーショナル法則自身が要求する別の前提(既出)を破るものであるため、オペレーショナル法則もこれらの限界からは自由ではないと推察される。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] 冒頭, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 36 Hierarchical Decomposition of Large Queueing Networks]] §36.3)
## 未解決の問い
- 36.3節が列挙する13の限界のうち、フォーク/ジョイン・資源の同時保持・負荷依存到着はいずれもジョブフローバランス(オペレーショナル法則が要求する唯一の実質的な仮定)を直接破りうる。この3項目についてオペレーショナル法則がどこまで無力になるか(使用率の法則・強制フローの法則のどちらがどう崩れるか)を、第36章は明示していない。
- オペレーショナル法則が与える漸近的な上下界(ボトルネック解析)と、確率的待ち行列モデル(第31章のM/M/1・M/M/m/B等)が与える厳密解は、同一のシステムに対してどの程度の乖離を持つか。第33章の例33.7・33.8は上下界と厳密解(第34章の平均値解析)を並べて図示するが、乖離の大きさを支配する条件(利用者数・思考時間・装置数など)は本章では定量化されていない。**(第34章更新)** 第34章の均衡ジョブ限界は乖離の具体的な数値例(例34.4)を追加で与えるが、乖離を支配する一般的な条件そのものはなお未解決である。
- 均衡ジョブ限界(第34章)の上下界の幅は装置数 $M$・$D_{\max}/D_{avg}$ の比にどう依存するか。第34章はこの依存関係を解析的には示さず、単一の数値例(例34.4)を示すにとどまる。
- ジョブフローバランスの仮定(到着数=完了数)が長期的には成り立つとしても、短い観測窓ではどの程度崩れうるか。観測期間 $T$ の長さと近似の精度の関係は、[[リトルの法則]]の未解決の問いにも共通する論点だが、オペレーショナル法則全体(強制フローの法則・一般応答時間の法則を含む)に対してどこまで一般化できるかは検討されていない。
- USE メソッドの「使用率」(時間ベース・容量ベース)は、オペレーショナル法則の使用率の法則 $U_i=X_iS_i$ とどこまで同一の量として扱えるか。USE メソッドがディスクコントローラのように容量ベースの使用率を採用する場合(→[[USE メソッド]])、$U_i=X_iS_i$ の形の恒等式は成り立つか、それとも別の定式化が必要か。
- 過負荷制御(→[[過負荷制御]])がキャパシティの単位として CPU 秒のようなリソース消費量を採用する設計は、オペレーショナル法則のサービス需要 $D_i$(単位: 時間)と同一視できそうに見えるが、両者を明示的に対応づけた議論は本wiki内にまだない。criticality に基づく選択的棄却を、装置ごとの $D_i$ を用いてどう定式化できるか。
## 関連
- [[待ち行列理論]] — オペレーショナル法則が前提を置かない対比先である確率的な待ち行列理論(第30〜32章)。
- [[リトルの法則]] — オペレーショナル法則の一員であり、一般応答時間の法則・対話型応答時間の法則を導く起点になる法則。
- [[キャパシティ計画]] — ボトルネック解析(33.6節)が提供する、待ち行列モデルを解く前の解析的な容量見積もり手段。
- [[USE メソッド]] — 使用率の法則が形式化する「使用率」という量を、実務のリソース診断メソドロジとして具体化したもの。
- [[過負荷制御]] — サービス需要という共通尺度を介して接続しうる、過負荷時の受付制御の実務。
- [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 33 Operational Laws]] — 使用率の法則・強制フローの法則・リトルの法則・一般応答時間の法則・対話型応答時間の法則・ボトルネック解析の原典。
- [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 30 Introduction to Queueing Theory]] / [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 31 Analysis of a Single Queue]] — オペレーショナル法則が前提を置かない対比先である確率的な待ち行列モデルの原典。
- [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 34 Mean-Value Analysis and Related Techniques]] — 均衡ジョブ限界(第33章の片側漸近限界を両側に補う手法)の原典。
- [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 36 Hierarchical Decomposition of Large Queueing Networks]] — オペレーショナル法則を待ち行列理論の限界(§36.3)から唯一名指しで除外する記述の原典。
## 出典
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 33, §33.1-§33.6.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 31, §31.2.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 34, §34.4.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 36, §36.3.