# アモータイズド因果発見 ## 定義 アモータイズド因果発見(Amortized Causal Discovery)とは、人工的に構築された事前分布空間 $\Phi$(SCM の分布 $p(\phi)$)から大量にランダムサンプリングした $(G, D)$ ペアで大規模な構造化データモデル(LDM)を事前学習し、未知の観測表形式データ $D$ が与えられたときに推論一発で因果グラフ $G$(またはその近似)を予測する手法群を指す(Zhang et al., 2025b の定義に基づく)。統計的検定を都度実行する古典的な制約ベース・スコアベース手法とは異なり、学習コストを事前学習フェーズに「アモータイズ(償却)」し、推論時は前向き計算のみで済む点が特徴である。[[時系列基盤モデル]]における事前学習パラダイムを因果構造発見に応用したものと位置づけられる。(Source: [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]] §2) 代表的な手法系譜: - **隣接行列直接予測系**: AVICI(Lorch et al., 2022)は Axial Transformer + max-pooling + 双線形ヘッドで辺存在確率を予測する先駆的手法。CSIvA(Ke et al., 2023)は自己回帰的に辺確率を予測。CauScale(Peng et al., 2026)・TabCausal(Li et al., 2026)はこの枠組みを大規模化した。これらは隣接行列を直接パラメータ化するため、DAG 制約(非巡回性)を形式的に保証できない。 - **順序+上三角行列分解系**: BCNP(Dhir et al., 2025)・Arrow(Thompson et al., 2026)は予測タスクを因果順序と上三角行列に分解し、DAG 制約を構造的に満たす。DAG-FM(Chen et al., 2026)もこの系譜に属し、順序識別(葉ノード予測)と DAG プルーニング(親ノード予測)に再帰的に分解する。 - **代替的な出力形式を予測する手法**: SiCL(Zhang et al., 2025a)はマルコフ同値類(MEC)を予測、TCD-DL(Kim et al., 2025)はターゲットノードの祖先集合を予測、TabOrder(Xu et al., 2026)は因果順序のみを予測。 - **潜在交絡因子を扱う手法**: FoundCause(Blöbaum et al., 2026)は潜在交絡因子を伴う因果発見を扱う。 ## 横断的知見 - **事前分布空間の識別可能性が、アモータイズド手法の理論的妥当性を決定する分水嶺である**: Dhir et al. (2025) は二変量因果発見において、事前分布空間が非識別可能であれば出力が曖昧になることを示した。逆に Montagna et al. (2025) は、良く規定された識別可能な事前分布空間で学習したモデルは一貫した結果を出せることを示した。DAG-FM はこの知見を多変量・異種メカニズムの設定に一般化し、LiNGAM・ANM・HNM・PNL の4族に事前分布空間を制限すれば(Assumption 4.3)、posterior が almost surely に真の DAG へ収束することを理論的に証明した(Theorem 4.5)。これは、アモータイズド手法の性能向上が単なるモデル容量やデータ規模の問題ではなく、**事前分布空間の設計そのものが理論的保証の有無を左右する**という設計原則を確立するものである。(Source: [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]] §4.1) - **隣接行列の直接予測から順序+上三角分解への移行は、[[因果発見]] の古典的な「順序ベース手法」の知見をアモータイズド推論に再輸入する動きである**: [[因果発見]] concept が整理する「構造的非対称性の利用」系統(LiNGAM・ANM・PNL)は元来、まず因果順序を決定し、その後に辺の有無を刈り込む2段階アプローチを取る(例: DirectLiNGAM の逐次的外生変数同定)。AVICI 世代のアモータイズド手法はこの構造を無視して隣接行列を直接予測したため DAG 制約を失ったが、BCNP・Arrow・DAG-FM は古典的な「順序→刈り込み」の分解を基盤モデルのアーキテクチャに戻すことで、スケーラビリティと形式的妥当性を同時に回復した。(Source: [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]] §4.3, [[因果発見]]) - **メモリ制約(OOM)が、アモータイズド因果発見における実質的な性能差別化要因になっている**: DAG-FM の実世界ベンチマーク(Sachs・Causal Chamber)では、AVICI・CauScale が Out of memory となり、精度比較の土俵に乗らなかった。古典的手法でも RESIT・CAM・SCORE・DAS・NoGAM・DAG-GNN が同様に OOM となっている。すなわち、アモータイズド因果発見の実世界適用における最初のボトルネックは「精度」ではなく「動くかどうか(スケーラビリティ)」であり、この観点は静的な精度指標(F1・nSHD)だけでは捉えられない。(Source: [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]] Table 3) ## 未解決の問い - **数百〜数千変数規模(マイクロサービス観測メトリクス相当)でのアモータイズド因果発見の妥当性は未検証**: DAG-FM の実世界ベンチマークは $d \le 38$ に留まる。付録の高次元スケーリング実験(最大500変数)は合成データのみであり、[[因果発見]] concept が指摘する「PC/Granger 系がメトリクス数20超で精度急落する」という実本番データの限界と同じ検証を、アモータイズド手法に対して行う必要がある。 - **異種メカニズムの事前分布空間設計の一般化可能性**: DAG-FM は LiNGAM/ANM/HNM/PNL の4族に限定した事前分布空間で理論的保証を得るが、この4族が実世界データのメカニズムをどの程度カバーするかは未検証。「一般メカニズム」(理論的保証なし)を含めた場合の性能劣化の定量評価も本論文には無い。 - **アモータイズド因果発見と古典的制約ベース・スコアベース手法(PC・PCMCI+・GES)の使い分け基準**: [[因果発見]] concept で整理される PCMCI+ ベースのマイクロサービス因果発見(Lohse et al. 2025)とアモータイズド手法(DAG-FM 等)を同一データセットで比較した研究はまだない。ドメイン知識制約の組み込みやすさ(PCMCI+ は明示的な仮定注入が容易)とアモータイズド手法の推論速度・スケーラビリティのトレードオフが未整理。 - **MoLE(Mixture-of-Leaf-Experts)のようなメカニズム族ルーティング機構が、観測ノイズの多い実運用データでどこまでロバストか**: DAG-FM の OOD 評価(付録B.3)は合成データ上の分布外シナリオ(未知グラフモデル・未知メカニズム・未知ノイズ分布)に限定され、実運用テレメトリのような測定誤差・欠損・非定常性を伴うデータでの評価はない。 ## 関連 - [[因果発見]] — 本 concept の理論的基盤。制約ベース・スコアベース・構造的非対称性・介入の4系統に、アモータイズド(基盤モデル)系統を追加する形で接続する - [[時系列基盤モデル]] — 「事前学習された基盤モデルで構造/パターンを予測する」というパラダイムを共有する隣接分野 - [[因果推論ベースRCA]] — マイクロサービス RCA での因果発見応用。本 concept が指摘するスケーラビリティ問題は RCA への適用可能性を左右する - `structures/` 参照: 因果推論に関連する MOC があれば一方向リンクで接続 ## 出典 - [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]](Chen, Guan, Qian, Cui, Yang, Kuang — 異種因果メカニズム下で識別可能な DAG を保証する因果発見基盤モデル。葉ノード予測+親ノード予測の2段階分解と Mixture-of-Leaf-Experts を提案)