## 定義 [[Transformer]] の各層に複数存在する自己注意(self-attention)機構の単一ユニット。あるトークンが「どのトークンに注目して情報を収集するか」を決定する。LLM の注意ヘッドは機能的に分化しており、それぞれが異なる役割を担う。 ## 機能的分類 [[佐藤竜馬]] 2025 年のサーベイ([[joisino-LLMアテンションと外挿-2025]])は 7 種を整理した。 | 種別 | 機能概要 | 参照 | |-----|---------|------| | **文法ヘッド** | 構文的依存関係(動詞←目的語など)に沿って注意を向ける | Clark+ 2019; Chen+ ICLR 2024 | | **注意の受け皿** | 対応先のないトークンが先頭トークン・句読点等に集中する受け皿 | Sun+ COLM 2024 | | **逐次ヘッド** | 直近数トークンのみ参照するN-gram的ヘッド(多数) | Wu+ ICLR 2025 | | **検索ヘッド** | 全文脈から必要な情報を取得する長距離参照ヘッド(少数) | Wu+ ICLR 2025 | | **[[帰納ヘッド]]** | `[A][B]...[A]→[B]` パターンで文脈内学習を実現 | Olsson+ 2022 | | **[[関数ベクトル]]** | タスク関数をベクトルで表現し MLP に渡す | Todd+ ICLR 2024 | | **[[反復ヘッド]]** | CoT テープ上の反復計算で処理位置を追跡 | Cabannes+ NeurIPS 2024 | ## 横断的知見 - 機能分化は明示的設計なく、次トークン予測精度の最大化を通じて**自然に出現**する。文法ヘッドは訓練途中に相転移的に突然出現し、同時期に文法能力が急上昇する(Chen+ ICLR 2024)。 - 検索ヘッドは少数(例:LLaMA 等で数十個中の一部)しか存在しないが、ニードルインアヘイスタックタスクにおいて 20 個削除すると精度が 94.7% → 63.6% に落ちる。逐次ヘッド 20 個削除では性能変化がほぼない。 - 注意の受け皿は、特殊トークン・句読点のセマンティクス的「空き地」をモデルが効率的に活用した結果として生まれる。ビジョントランスフォーマーでも同現象が確認されている(Darcet+ ICLR 2024)。 - **レジスタトークン**(Darcet+ ICLR 2024)は、受け皿機能を専用の無意味トークンへ明示的に割り当てることで注意分布を「きれい」にし、性能向上をもたらす。デコーダー型では自己回帰制約のため実現困難。 - [[joisino-LLMアテンションと外挿-2025]] の「注意の受け皿」は、[[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]] が扱う attention sink 現象(文頭[CLS]・文末[SEP]・句読点への注意重み偏重)と同一現象を指す。後者はこの現象がmassive activations/super weights(外れ値活性化)と結びつくメカニズムを詳述し、StreamingLLM・SepLLMのようなアーキテクチャ的対処や、softmax₁・clipped_softmax・Gated attentionのような数式レベルの緩和策を紹介する点でレジスタトークンとは異なる解決アプローチを示す(Source: [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]])。 - 注意重みをそのまま「説明」として解釈してよいかについては議論があり(Jain & Wallace 2019 "Attention is not Explanation" 対 Wiegreffe & Pinter 2019 等の反論)、Value ベクトルのノルムを考慮する拡張手法(Kobayashi et al. 2020)を使うと文頭偏重の見かけ上の強さが薄まることが示されている(Source: [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]])。 - IOI回路(Wang et al. 2023)は、Duplicate Token Heads・S-Inhibition Heads・Name Mover Headsという複数のアテンションヘッドの協調として間接目的語予測を実現する、複数ヘッド構成の代表例である(Source: [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]])。 - **『ディープラーニングを支える技術』は、複数ヘッドを使う理由を「畳み込み層が複数フィルタで異なるパターンを検出するのと同じ発想」というアーキテクチャ設計上の動機として説明し、本ページが集める機能的分化の実証研究(文法ヘッド・検索ヘッド等)とは異なる、設計時点での意図を提供する**: 同書第4章 §4.4は、1つの読み込みヘッドを「ハードディスクのヘッドのイメージ」にたとえ、画像でいえば1つのヘッドはあるパターンに対応するとした上で、「畳み込み操作で複数パターンを使ってさまざまな種類の情報を抽出していたように、注意機構でも複数の注意パターンを使って異なる種類の情報を取得することがほとんどの処理で必要になる」と述べ、「学習の過程で各headが相補的な情報を読み取るようになる」としてCordonnier et al. (ICLR 2020)のMHAと畳み込みの等価シミュレーション結果を引用する。これは本ページが集める2024年以降の実証研究(文法ヘッド・検索ヘッド・注意の受け皿等、いずれも訓練済みモデルを事後分析して発見された機能分化)とは異なり、「なぜマルチヘッド化を設計するのか」という2017年のTransformer原論文以来のアーキテクチャ側の動機を与える。両者を合わせると、マルチヘッド化は「複数の相補的パターンを並列抽出する」という設計意図(ch.4)のもとで導入され、実際に学習された結果として文法・検索・受け皿のような機能分化が事後的に観察される(本ページの実証研究群)という、設計意図と学習結果の対応関係が見えてくる。ただし畳み込みのフィルタは空間内の固定パターンを検出するのに対し、注意ヘッドが検出するのは系列内の関係性(構文的依存・長距離参照等)であり、この質的な違いがどこまで類推として有効かは同書では立ち入られていない。(Source: [[@2022__Gihyo__ディープラーニングを支える技術 - Chapter 4 ディープラーニングの発展]] §4.4, [[joisino-LLMアテンションと外挿-2025]]) ## 未解決の問い - attention sink(注意の受け皿)への数式レベルの緩和策(softmax₁等)とレジスタトークンのようなアーキテクチャレベルの解決策は、どちらがより本質的な対処か。両者は排他的か併用可能か(Source: [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]])。 - 注意重みの解釈可能性論争は決着していない。Value ベクトルのノルムを考慮する等の拡張手法は、どこまで「説明」としての妥当性を回復できるか(Source: [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]])。 ## 未解決の問い - 7 分類以外の重要ヘッドは存在するか?各ヘッドに別の解釈や説明はあるか? - 検索ヘッドが少数に絞られる理由は何か(コスト最適化?訓練ダイナミクス?)。 - 文法ヘッドの相転移は他の能力(算術・コーディング等)でも観察されるか? - 「複数の相補的パターンを並列抽出する」という畳み込みからの類推による設計意図(ch.4)は、検索ヘッドが少数しか出現しない・逐次ヘッドが多数を占めるといった非対称な機能分化(本ページ横断的知見)をどこまで予測できるか。もし予測できないなら、畳み込みのフィルタ類推はマルチヘッド化の動機としては妥当でも、実際に学習される機能分化を説明する理論としては不十分ということになるか。 ## 関連ページ - [[Transformer]] — アテンションヘッドが実装されるアーキテクチャ - [[機構的解釈性]] — ヘッド機能を特定する方法論 - [[帰納ヘッド]] / [[関数ベクトル]] / [[反復ヘッド]] — 代表的ヘッド種別 - [[注意機構]] — マルチヘッド注意の基本演算 - [[@2022__Gihyo__ディープラーニングを支える技術 - Chapter 4 ディープラーニングの発展]] — マルチヘッド化の畳み込みからの設計動機 ## 出典 - [[joisino-LLMアテンションと外挿-2025]] - [[@2025__SpeakerDeck__言語モデルの内部機序:解析と解釈]] - 岡野原大輔, 『ディープラーニングを支える技術』, 技術評論社, 2022, 第4章, §4.4.