「論文ってどうやって探しているんですか?」
ここ2,3年で、ソフトウェアエンジニアの方々から何回か聞かれた質問だ。そのときは、7年前に書いた[「インフラエンジニア向けシステム系論文」](https://blog.yuuk.io/entry/system-papers)を紹介してきた。当時、僕はまだエンジニア職だったが、3年前にさくらインターネットに転職して以来、研究者として論文を読み書きする時間が顕著に増加している。その経験を踏まえて、この記事を読み返すと、古くなっている箇所や未熟な記述が散見されるため、アップデート版が必要であると考えた。
論文を書くことを生業とする研究者に向けた、論文の探し方や読み方をテーマとする文献は多数存在するものの、ソフトウェアエンジニアに向けた文献に出会う機会は少ない。ソフトウェア領域の情報科学に関する論文の想定読者には、ソフトウェアエンジニアが含まれているはずなので、ソフトウェアエンジニアを論文へと誘うことには意義がある。
この記事では、なぜ論文を読むのか、システム系論文とはなにか、論文の種類、論文をどうやって探すのか、論文をどうやって読むのか、を研究者向けではなく、ソフトウェアエンジニア、特にSRE(Site Reliability Engineering)を志向するエンジニアに向けて紹介する。
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## はじめに
この数年間の変化を振り返ると、7年前は、まだクラウドやウェブのインフラ領域のエンジニアが論文を読む光景をそれほど見かけなかった。当時在籍していたはてなの社内では、情報科学専攻の博士が3名ほどいらした((今思えばエンジニア30,40人に対して博士が3人もいるのはすごいことだ。現在著者が所属しているさくらインターネット研究所でも博士は3人しかいない。博士後期課程を修了はしていないが進学経験のあった方はさらに何名か在籍されていたはず。))ので、論文輪読会が開催されていた。僕はたまたまそれに参加していたこともあり、少し論文を読んでいた。今では、当たり前とはいわないまでも、論文を読まれている姿を頻繁にみかけようになった。
実際に、次に列挙するように、ソフトウェアエンジニアが様々なシステム系論文を読んでいるかもしくは参考文献に挙げている様子がわかる。((網羅的に調査すればもっと記事を発見できるはず。なぜか同一の論文を読んだ記事が5件もある。))
- [Web サービスの信頼性と運用の自動化について / iot40-rrreeeyyy - Speaker Deck](https://speakerdeck.com/rrreeeyyy/iot40-rrreeeyyy?slide=11)
- [2020 Year in Review | Taichi Nakashima](https://deeeet.com/posts/2020/#paper)
- [nhiroki's weblog](https://nhiroki.jp/tag/paper/)
- [Research Paper カテゴリーの記事一覧 - tom__bo’s Blog](https://tombo2.hatenablog.com/archive/category/Research%20Paper)
- [Google Omegaとは何か? Kubernetesとの関連は? 論文著者とのQA(翻訳) | Taichi Nakashima](https://deeeet.com/writing/2015/09/17/qa-omega/)
- [時系列データベースに関する基礎知識と時系列データの符号化方式について - クックパッド開発者ブログ](https://techlife.cookpad.com/entry/timeseries-database-001)
- [BBR: Congestion-Based Congestion Control とは - itkq.jp](https://itkq.jp/blog/2017/07/31/bbr/)
- [[論文紹介] TiDB:a Raft-based HTAP database](https://zenn.dev/tzkoba/articles/4e20ad7a514022)
- [[論文紹介] Snowflake - NSDI '20 -](https://zenn.dev/tzkoba/articles/2a42a5662b128b5adb43)
- [論文メモ | κeenのHappy Hacκing Blog](https://keens.github.io/categories/%E8%AB%96%E6%96%87%E3%83%A1%E3%83%A2/)
- [論文 の検索結果 - チェシャ猫の消滅定理](https://ccvanishing.hateblo.jp/search?q=%E8%AB%96%E6%96%87)
- [これから読みたい論文メモ - inductor's blog](https://blog.inductor.me/entry/2020/08/27/105821)
- [The History of Distributed Databases - Google, Amazon, Facebook など巨大企業による分散データベース技術の発展 | Wantedly Engineer Blog](https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/223522)
- [2020年現在のNewSQLについて - Qiita](https://qiita.com/tzkoba/items/5316c6eac66510233115)
- [TCCパターンとSagaパターンでマイクロサービスのトランザクションをまとめてみた - Qiita](https://qiita.com/nk2/items/d9e9a220190549107282)
- [コンテナデザインパターン - nullpo.io](https://www.nullpo.io/2019/12/17/container-design-pattern/)
- [コンテナのデザインパターンを学べる論文「Design patterns for container-based distributed systems」を読んだ - kakakakakku blog](https://kakakakakku.hatenablog.com/entry/2018/09/24/003723)
- [コンテナベースシステムのデザインパターンに関する論文紹介 - エムスリーテックブログ](https://www.m3tech.blog/entry/container-based-system-design-pattern)
- [コンテナを使った分散システムのデザインパターン(Design patterns for container-based distributed systems) - 理系学生日記](https://kiririmode.hatenablog.jp/entry/20180630/1530329159)
- [Serverspec の論文を読んでみた - kakakakakku blog](https://kakakakakku.hatenablog.com/entry/2014/03/06/104814)
手前味噌だが、僕は[WebSystemArchitecture(WSA)研究会](https://websystemarchitecture.hatenablog.jp/archive)という野良の研究会を主催している。ここでは、発表者の内訳半分以上がエンジニアであり、研究開発のサーベイのために、自然と論文を読んでいる方が多い。
エンジニアに広く利用されているプロダクトの貢献が論文として出版されているケースもある。ここでは、昨年発表された論文を例を挙げよう。AWS LambdaやAWS Fargateの基盤として利用されているFirecrackerは、[ネットワークのシステムソフトウェア系トップ会議NSDI'20で発表された](https://www.usenix.org/conference/nsdi20/presentation/agache)。NewSQLのOSS実装の代表格の一つであるCockroachDBは、[データベース系トップ会議SIGMOD'20で発表されていた]((https://www.cockroachlabs.com/blog/cockroachdb-sigmod-2020/))。Facebookで開発されたMySQLのRocksDBベースのストレージエンジンMyRocksは、[データベース系トップ会議 VLDB'20で発表された](https://dl.acm.org/doi/10.14778/3415478.3415546)。第一著者の松信嘉範さんは、MySQLの高可用性クラスタを構築する[MHA for MySQL](https://code.google.com/archive/p/mysql-master-ha/)の開発者としても知られている。
このように、実践性が要求されやすく、IT以外の分野からみると、学術研究とは縁遠いようにみえるシステム系の分野であっても、学術研究とエンジニアの距離は、近づいているように感じられる。あるいは数十年前はもっと近かったのではないか。例えば、日本のインターネットを代表する研究・運用プロジェクトである[WIDE Project](https://www.wide.ad.jp/Research/index.html)は、プロジェクトの標語に「左手に研究、右手に運用。」を掲げている。
## 論文を読む動機
このように、実際にソフトウェアエンジニアの方々が論文を読んでいて、実際に使用しているプロダクトの論文が出版されていることから、エンジニアが論文を読む動機があることは潜在的には明らかである。そこで、論文を読む動機を改めて整理してみる。
研究者は、少なくとも学術を志向する場合は、新しい知を既存の知に積み上げていく。論文を書く研究者が、既存の知を知るために論文を読むのは至極当然のことだ。
その一方で、エンジニアは論文を読むことで、何を得られるだろうか?単に技術の知識やテクニックを学ぶのであれば、網羅的に解説されている書籍やウェブの記事を読むほうが望ましいのではないか。
**知的好奇心の満足** トップクラスの論文には、世界の最先端のアイデアが結集されているため、知的好奇心を満たすことができる。例えば、Google Researchによる2018年の[The Case for Learned Index Structures](https://www.arxiv-vanity.com/papers/1712.01208/)は、データベースのインデックス構造が機械学習の学習モデルの一種であると捉えて、与えられたキーの位置を最小誤差が0、最大誤差がページサイズとして予測する回帰木に帰着できる、と主張している。国内のソフトウェアエンジニア界隈でも話題になっていた。特に優れた論文は、「何が新しいか?」「その新しさは有用か?」という問いに対する明確な解答(学術的貢献)が用意されており、いかにも知的好奇心を満たしてくれそうなものである。
**思考の軸の獲得** 論文から得られる学術的知識の価値は、即時の実践ではなく、思考の軸や切り口を提供してくれることにあると考えている。経営学の分野で昨年出版された[[世界標準の経営理論]]では、学術の理論はwhyに応えるものであり、思考の軸や切り口を与えてくれると述べている。ビジネスの現象があってそれを理論で説明する経営学における「理論」が、アルゴリズムを考えたり、システムを創るコンピュータサイエンスにおける何に対応するのかは明確にわからない。しかし、良い論文を読むと今まで見知っていたつもりの対象に新しい切り口を与えてくれると感じることは確かにある。例えば、今年のACM HotOSで発表された、Nathan Bronsonらによる"Metastable Failures in Distributed Systems"は、準安定状態で...。
**ソフトウェアの理解** 普段使用しているソフトウェアに論文で提案されたアイデアが組み込まれている例もある。そのアイデアを理解することで、ソフトウェアをより効果的に活用できる可能性がある。例えば、GoogleのSpanner、AmazonのAurora、Google BigTable、Amazon DynamoDB、HashicorpのSerfやConsulなど、。AWS Lambda、CockroachDB、MyRocks
**原典の参照** ただし、分野の古典知識を一通り学びたいのであれば、原典となる文献を基に、後世の識者がまとめた教科書のほうが適しているように思う。
**ソフトウェアの検証結果の参照**
有名企業やプロダクトの内部を知りたい、という動機には必ずしも論文が適しているわけではない。単に内部を知りたいのであれば、ブログ記事やその企業がだしているホワイトペーパーで十分である。ただし、トップ会議に通るような論文であれば、ブログ記事よりも品質が高いことを期待できるため、もちろん論文を読んでもよい。
私見ではあるが、コンピュータシステム分野の論文はなんらかの理論、アイデア、体系を提案する提案書あるいは企画書の一種であると考えている。設計書でもなく、ソースコードの解説ドキュメントでもないため、実装の詳細を知るには不向きな形式の文書であると考えている。
論文は、少し外れた分野の人も読むことを想定するので、抽象度の高いところから徐々に具体性をもたせていき、実装の詳細は簡単に記述することもある。すでに名を馳せているプロダクトの学術的貢献をまとめた論文であれば、その有用性はすでに広く知られているから、新規性や有用性よりも、実装の細部を知りたい、というケースには論文は不向きなこともある。
## システム系論文とはなにか?
7年前の「[インフラエンジニア向けシステム系論文](https://blog.yuuk.io/entry/system-papers)」では、「システム系論文」を次のように主観的に定義している。
> 「システム系論文」という呼称は正式なものではなくて、なにがシステム系なのかを一言で表現するのは難しいですが、コンピュータシステムそのものについて論じていればシステム系なのかなと勝手に思っています。 具体的には、計算機アーキテクチャ、オペレーティングシステム、分散システム、ストレージなどトピックは多岐に渡ります。
システムとは、暗黙にコンピュータシステムを指すにもかかわず、システムと
付け加えるなら、「システム系」といっても、範囲は広いため、自身の専門分野を中心に隣接分野が展開されるようなメンタルモデルをもつのではないかと思う。
自分の専門分野がクラウドで、かつ、ソフトウェア層のシステムを扱うため、この記事が対象とする「システム系」は、強いて言えば、「ソフトウェアにより構成されるクラウドを構成するシステム系」となる。この「システム系」は、USENIX LISA((2021年にUSENIX LISAはUSENIX SREConに統合された。))で扱われるテーマ・トピックが近しい。
[f:id:y_uuki:20201224150353p:image]
(<https://www.usenix.org/conference/lisa19/call-for-participation> より引用)
ある程度独立した要素技術をあえて統合して扱っていることには理由がある。最終的に、システムとして成立させるために、ネットワーク、データベースなど、複数の要素技術を統合して扱う必要がある。本記事のタイトルで、「SRE向け」と銘打っているのはそのためである。
## 論文の種類
論文の種類は、論文の内容やその完成度を推し量る材料になる。next49さんの[論文の再投稿と多重投稿について - 発声練習](https://next49.hatenadiary.jp/entry/20101110/p1)の記事によると、論文の種類は次のように分類される。
> 研究の完成度から、原著論文>会議録掲載論文>Letter, Communication>Short paper, Technical report>Postion Paper という関係
一般に完成度の低い順から投稿し、徐々に完成度を上げていき、最終的には原著論文として採録されると研究が完成となる。とはいっても、いきなり原著論文を投稿してもよく、何から書き始めるかにルールはない。
**原著論文**は、学術雑誌に掲載されるため、学術雑誌の種類に応じて、**ジャーナル論文**、**論文誌論文**と呼ぶこともある。
情報系では、**会議録掲載論文**のうち、査読つきの国際会議の掲載論文が他分野と比べて重視されており、原著論文をあえて書かないこともある。いわゆるトップカンファレンスと呼ばれる会議の会議録に掲載される論文は、会議録掲載論文になる。会議録掲載論文には、フルペーパーとショートペーパー、ワークショップペーパーなどの分類があり、会議ごとにその位置づけが決められる。著者が知る範囲では、2カラム構成で4-6ページであればショートペーパーかワークショップペーパー、8ページ以上であればフルペーパー、2ページ程度であればポジションペーパーである。
オープンアクセスの論文アーカイブ[arXiv](https://arxiv.org/)もある。ジャーナルや国際会議で、査読を受ける前に、成果を速報するために、投稿することがある。特に機械学習分野ではよく利用されている。
同じ研究内容でも、研究の完成度に応じて、複数の異なる種類の媒体へ段階的に投稿されることがある。そのため、論文を探すときは、完成度の高い形式の論文を選ぶとよい。単純に発行年が新しいものを選ぶだけでよいはずだ。原著論文は、掲載媒体名に"Journal"や"Transaction"を含むことが多く、国際会議名は"Conference"を含むことが多いため、これらの語句を目安にするとよい。
これらの論文以外には大学・大学院で学位を請求するための**学位論文**(Thesis)がある。学位に応じて、卒業論文、修士論文、博士論文があり、学究の達成を評価するための論文なので、前述の種類の論文よりも、前提知識が丁寧に記述されていることがある。
媒体以外の分類として、手法やシステムを提案する論文以外に、**サーベイ論文**がある。サーベイ論文はレビュー論文とも呼ばれ、すでに公表されている既存の研究結果をまとめ、分析や考察をする論文である。
## SRE関連論文の例
SREが内包する技術は多岐にわたる。例えば、次のような試みがある。
[https://blog.yuuk.io/entry/2019/map-of-web-systems-architecture:embed]
SREに直接の関連性向けの論文の例を示す。
### SLI/SLOに関連する論文
- [[2020__NSDI__Meaningful Availability]]
- [[2019__HotOS__Nines are Not Enough Meaningful Metrics for Clouds]]
### Monitoring & Obsevability
- [[2021__SIGMOD__Towards Observability Data Management at Scale]]
- [[2020__VLDB__Monarch - Google’s Planet-Scale In-Memory Time Series Database]]
### Incident Response
- [[2020__ASE__How Incidental are the Incidents? Characterizing and Prioritizing Incidents for Large-Scale Online Service Systems]]
- [[2018__Fault analysis and debugging of microservice systems - Industrial survey, benchmark system, and empirical study]]
- [[2021__HotOS__Metastable Failures in Distributed Systems|Metastable]]
- [[2017__HotOS__Gray Failure - The Achilles Heel of Cloud Scale Systems]]
## どのように論文を探すのか?
論文の探し方は、論文検索エンジンベースの探し方とコミュニティベースの探し方に分かれる。検索エンジンベースのアプローチは、自分で探したい論文のイメージを先に構築してから、検索エンジンなどでキーワードをもとに探すやり方である。コミュニティベースのアプローチは、国際会議や研究グループ、研究者をウォッチしておき、会議が開催されたり、論文が投稿されたら、そこから興味のあるものを発見するやり方である。
### 検索エンジンベースのアプローチ
論文を検索するツールとして、僕は[Google Scholar](http://scholar.google.com/)を使用している。機能はそれほど多くはないが、とにかく高速に動作するので、昔から愛用している。その他、[Microsoft Academic Research](https://academic.microsoft.com/)もあるが、こちらは機能は豊富だが、最新の論文がインデックスされていないこともあるため、自分ではあまり使っていない。
このような論文検索エンジンを活用しても、最初から上手に検索するのは難しい。例えば、検索語句に曖昧な大分野名("database"や"network")を指定しても、あまりに検索結果が多すぎて、そこから興味のあるものを抽出するのは大変だ。
ホットなトピックの名称を検索語句に添えて、探索範囲を限定した上で検索するのは一般的な探し方だ。例えば、近年では、マイクロサービスアーキテクチャをテーマにした多数の論文が出版されていることから、"Microservices"を検索語句に含めて検索することが多い。トピック固有の技術に興味がなくとも、必ずしもそのトピックに限定した知見でないケースもあるため、トピックに近しいシステムを扱っているのであれば、十分おもしろく読めることもある。
プロダクトやツールの名称のように、実装に近い用語を使って検索することもある。自分が普段使っているツールに言及している論文には関心を寄せやすい。意外な論文に出会うこともある。
学術の世界で使われている用語と産業界の用語が一致しないか、どちらの世界でもある程度抽象度の高い概念になると、用語が一貫しないこともあるため、適切な検索語句がわからない場合もある。例えば、先日書いた記事 [分散アプリケーションの依存発見に向いたTCP/UDPソケットに基づく低負荷トレーシング - ゆううきブログ](https://blog.yuuk.io/entry/2021/wsa08)では、対象は"Distributed Application"という表記になるが、論文によって選択される用語は、"Cloud Application"、"Distributed System"、"Network Application"、"Microservices"と多岐にわたる。さらに、問題領域は"Network Services Dependencies Discovery"だが、これも"Inter-application Traffic Monitoring"、"Service Dependency Detection"とバリエーションがある。どれか一つの論文にたどりつけば、引用論文と被引用論文から。引用論文は論文の参考文献の項目に列挙されており、被引用論文は論文検索エンジンから辿ることができる。
ある分野で、どのような論文が出版されているかを知りたいのであれば、サーベイ論文を読んで分野の全体像を掴むとよい。例えば、自分の場合は、エッジコンピューティングという当時著者にとって未知な分野を知るために、まずサーベイ論文を読んだ。[エッジコンピューティング調査 - 動機と分類 - ゆううきメモ](https://memo.yuuk.io/entry/2019/learning-edge-computing01) サービス論文は、論文タイトルに"Survey"を含むことが多いため、検索で発見しやすい。人気の分野であれば、サーベイ論文だけも多数の論文が出版されている。
サーベイ論文の他に、多数の研究論文をもとに、特定の分野の技術を体系的に概説する書籍もある。例えば、Martin Kleppmann著「[データ指向アプリケーションデザイン](https://www.oreilly.co.jp/books/9784873118703/)」はデータベース分野の非常に優れた導き手となる。
### コミュニティベースのアプローチ
#### 国際会議
学術研究のポータルサイトである[Research.com](https://research.com/)(旧Guide2Research)には、国際会議やジャーナルのランキングが掲載されている。
- [Top Computer Science Conference Ranking for Software Engineering | Research.com](https://research.com/conference-rankings/computer-science/software-programming)
| 分野 | 会議名(略称) | CORE rank | Research.com |
|:-------------- |:----------------------------------------------------- |:---------:|:------------:|
| システム系全般 | [USENIX ATC](https://www.usenix.org/conference/atc20) | A | |
| | [EuroSys](https://www.eurosys2020.org/) | A | |
| クラウド系 | IEEE CLOUD | B | |
| | ACM SoCC | | |
EuroSys [2020ではGoogleからBorgのトレース情報のデータセット](https://ai.googleblog.com/2020/04/yet-more-google-compute-cluster-trace.html)
クラウド系
- ACM SoCC (ACM Symposium on Cloud Computing) 110
- CCGrid (IEEE/ACM International Symposium on Cluster, Cloud and Internet Computing)
- IEEE CLOUD (IEEE International Conference on Cloud Computing)
- UCC (IEEE/ACM International Conference on Utility and Cloud Computing)
- HotCloud (USENIX Workshop on Hot Topics in Cloud Computing)
OS・システムソフトウェア系
- EuroSYS (The European Conference on Computer Systems) A
- USENIX ATC 43
- USENIX OSDI 113
- USENIX Middleware
- ACM SAC (ACM Symposium on Applied Computing) 154
- ACM HotOS (Workshop on Hot Topics in Operating Systems) 220
- ASPLOS
ネットワーク系
- IEEE INFOCOMM 19
- ACM SIGCOMM
- USENIX NSDI
- NOMS
データベース・ストレージ系
- ACM SIGMOD
- VLDB
- USENIX FAST
- ACM SYSTOR
- USENIX Hot Storage
ディペンダビリティ
- DSN 143 (International Conference on Dependable Systems and Networks)
- PRDC (IEEE Pacific Rim International Symposium on Dependable Computing)
ソフトウェアエンジニアリング系
- [ICSE](http://www.icse-conferences.org/) (International Conference on Software Engineering) A* 15
- [ESEC/FSE](https://www.esec-fse.org/) (ACM Joint European Software Engineering Conference and Symposium on the Foundations of Software Engineering) A* 156
- [ISSRE](https://issre.net/) (International Symposium on Software Reliability Engineering) A 473
ウェブサービス系
- [TheWebConf](https://thewebconf.org/) (旧略名 WWW)(The ACM Web Conference) 8 A*
- ICSOC (International Conference on Service Oriented Computing) A, 235
- IEEE ICWS (IEEE International Conference on Web Services) A
その他、計算機アーキテクチャやセキュリティなどの重要な分野があるが、自分ではそれらの分野の論文を読むことが少ないため、ここでは割愛する。
#### 国内の研究会
- 情報処理学会 インターネットと運用技術研究会(IOT研究会)
- 情報処理学会 オペレーティングシステムとシステムソフトウェア(OS研究会)
- 情報処理学会 データベースシステム研究会
- 日本データベース学会 Web DB forum
#### ブログ
Adrian Colyerによる[Morning Paper](https://blog.acolyer.org/)は、システム系を中心にコンピュータサイエンスの最新の論文を追うのに非常に有用である。しかしながら、COVID-19の影響により、Colyer氏の生活が変化したことと、コンピュータサイエンス以外の分野へ興味が変遷したことから、当分の間休刊すると2021年2月に告知された。[The ants and the pheromones | the morning paper](https://blog.acolyer.org/2021/02/08/the-ants-and-the-pheromones/)
AWS S3のAutomated Reasoning Groupに所属するMurat Demirbasによる[Metadata](http://muratbuffalo.blogspot.com/)は、分散システムを中心に論文やその分野のホットトピックが紹介されている。
論文を紹介するブログはおそらく多数あると期待しているのだが、僕はあまり発見できていないので、もし読者が発見することがあれば教えてほしい。
### Podcast
[Misreading Chat](https://misreading.chat)では、コンピュータサイエンス分野の論文が紹介され、その論文についての感想が聞ける。ソフトウェアエンジニア視点でとてもおもしろい論文が毎回紹介されている。
[e34.fm](https://e34.fm)は、SREやインフラのプラットフォームエンジニアリングに関するホットなニュースや、Go言語、eBPF、SRE、コンテナセキュリティなどの特定のトピックの最新の情報を共有してくれている。番組の中で、ときおり、最新の論文が紹介されている。
ブログ同様に英語の番組を合わせれば、他にもいろいろはずだが、自分ではあまり探せていない。
### 分野の動向を知る
[クラウド系の国際会議IEEE CLOUD 2020参加録 - ゆううきブログ](https://blog.yuuk.io/entry/2020/ieeecloud2020)
### 探した論文の管理
論文はたくさんあるので、発見した論文をあとで思い出して、たどり着くことは難しい。昔発見した論文にたどり着けるように、発見した論文を管理しておきたい。自分の場合は、論文のPDFと書誌情報を管理するために、文献管理サービスの[Paperpile](http://paperpile.com/)を使っている。PaperpileはGoogle DriveにPDFを保存するため、Google DriveのPCとの同期サービスを使って、ローカルのPDFビュワー(Preview)ですぐに読めるようにしている。また、Chrome拡張が提供されており、この拡張でGoogle Scholarの検索結果からボタンひとつでPaperpileに論文を登録できる。
## 論文をどうやって読むのか?
論文のよい読み方は、論文を読む動機により異なる。
nhirokiさんはもともと論文を細部に至るまで精読されていたところ、読みたい論文がたくさんあるアブストラクトだけ精読する仕組みを構築されている。[コンピュータサイエンス論文を多読する試み](https://nhiroki.jp/2020/03/02/how-to-read-more-papers)
論文を書いたことがあると、レベル2
[https://twitter.com/ki1tos/status/1337325057966702593:embed]
純粋にこの研究の提案はなにが新しくてどう有用なのかを知りたければ、貢献を読み取る
## 参考
- [システム系論文の情報収集方法 - 睡分不足](https://mmi.hatenablog.com/entry/2020/12/01/034833)
- [https://gist.github.com/ozaki-r/9b28005eb877ae35f5507976f190983e]
- [システム系論文紹介のまとめ · GitHub](https://gist.github.com/ozaki-r/9b28005eb877ae35f5507976f190983e)
- [[Read papers, Not too much, Mostly foundational ones](http://muratbuffalo.blogspot.com/2021/02/read-papers-not-too-much-mostly.html)]
- [Metadata](http://muratbuffalo.blogspot.com/search/label/paper-review)
- [@michioh](https://twitter.com/michioh)さんによる https://micchie.net/files/RG-HowToPaper.pdf
- [[Fetching Title#6gtj](https://www.quora.com/What-is-the-best-way-to-read-CS-research-papers)]
## まとめ
## あとがき
[https://twitter.com/yuuk1t/status/1341748421099618305:embed]
昨年末に筆をとったものの書き上げきれずに蔵入りしていたことを思い出してこの年末に滑り込むようにこの記事を書き上げた。
自分の関心分野にスコープを狭めたとしても、毎年出版される論文が多すぎて、キャッチアップが追いついていない。少なくとも自分の観測範囲では、国内にクラウドやSRE分野の研究者が少ないため、おもしろい論文を発見したときに共有するコミュニティが発達していないように感じる。データ科学分野の研究者の方々をSNSでフォローしていると、コミュニティベースで最先端の研究動向がどんどん共有されているようにみえている。また学会イベントだと、電子情報通信学会の[情報論的学習理論と機械学習 (IBISML) 研究会](https://ibisml.org/)では、ワークショップにて最新の研究動向が共有されるセッションがある。
自分もエンジニアを巻き込んだ、研究動向の情報共有の場を作りたい気持ちがあるが、どのような場にするかを考えあぐねている。もし興味がある方がいたら声をかけてほしい。