博士課程に入る前あたりから、科学と技術は、何が違うのだろうかを考えている。中谷宇吉郎著「科学の方法」を読んだりして、すっきりした考えに帰着した。
科学は「知」を生産し、技術(Technology)は「モノ」を生産する。「知」の中には、「モノ」の作り方の「知」もある。各生産物の利用者は、科学に対しては知を得られ、技術に対しては作り方の知を知らなくても、技術を利用できる。工学分野は、「モノ」を生産することと、科学と技術が非常に近く、「モノ」の作り方の「知」を探求する。実際に作れることを示さないと、本当に作れるのかがわからないので、プロトタイプを開発するか、企業の実践の場で開発して、評価する。
Engineeringは辞書上は工学を指す。しかし、科学の一分野のことを指して、Engineeringと呼ばれることはあまりない。Engineeringは、技術(Technology)を生産に至るまでの直接のプロセスの全てをさして、Engineeringと呼ばれているのではないか。Engineeringの接尾辞が-ingであることは、プロセスを連想させる。
Engineeringを遂行する上で、「モノ」の作り方の「知」も必要である。また、人間が「モノ」を作ることから、人間が訓練によって獲得するTechniqueも必要になってくる。Techniqueも、Technology同様に、日本語で技術と訳されるので、TechnologyとTechniqueは混同されやすい。TechnologyはTechniqueを以て生産されるが、TechnologyがTechniqueを置き換えることもある。
ちなみに、ルネッサンス期などの職人の時代では、Technologyというよりは、技芸(Art、Technique、Craft)であったのではないか。
科学と似たような用語に、学術や学問がある。自然科学や工学では、ほぼ同じ意味で使われている。その一方で、科学は、文学や社会学など一部の文化系学問分野を含まないことがある。