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## eBPF × AI/LLM:システム監視機能と人工知能の融合
> 鄭宇生(Yusheng Zheng)
人工知能技術とeBPFの融合は、システムソフトウェアの新たなフロンティアを急速に切り開いており、複雑なアプリケーションの構築・管理方法にパラダイムシフトをもたらしています。大規模言語モデル(LLM)は単なるアプリケーションから、ソフトウェア開発ライフサイクルにおける能動的なAIエージェントへと進化しており、カーネル拡張を含む低レベルシステムコードの生成、最適化、検証にますます活用されるようになってきています。一方で、これらの高度なAIワークロードやエージェントが実行される際には、効率的かつ安全・確実に動作させるために、従来にないレベルの実行時コンテキストが必要となります。ここでeBPFが真価を発揮します。カーネルを安全かつ効率的にプログラムできる仕組みを提供し、現代のシステムが求める高精度なテレメトリデータを取得することが可能です。
この強力な相互関係は共生的な循環関係を形成しており、各技術が互いの機能を相乗的に強化しています。相乗効果は主に以下の2つの方向で発揮されます:
- **AIのためのeBPF:AI/MLワークロードの最適化** この方向では、eBPFはAIシステム向けの高度なセンサー群および拡張ランタイムとして機能します。カーネルの動作状況を詳細かつリアルタイムに可視化することで、開発者はGPUの処理停滞、ネットワークI/Oの遅延、非効率なデータアクセスパターンなど、複雑なAI/MLパイプラインにおけるパフォーマンスボトルネックを的確に特定・診断できるようになります。このテレメトリデータは、リソース利用率の最適化、AIエージェントのセキュリティコンプライアンス確保、そしてワークロードを動的に調整して最大のパフォーマンスと効率性を実現するための閉ループフィードバックシステムの構築において極めて重要です。
- **eBPFのためのAI:オペレーティングシステムの最適化** 逆に、AIおよびLLMはカーネル開発における強力な支援ツールとして機能します。これらのツールは、自然言語による高レベルなプロンプトからeBPFプログラムを自動生成・検証・最適化するために使用され、高度なシステムロジックの作成における障壁を大幅に低減します。これにより、学習型CPUスケジューラ、適応型ネットワークトラフィック管理、先回り型セキュリティ強制など、動的でインテリジェントかつ自己調整機能を備えたOSポリシーを構築することが可能になります。これは根本的に、基盤となるオペレーティングシステムの動作性能を向上させるものです。
この相乗効果の実用的な影響は、すでに2024年から2025年にかけて発表された最先端アプリケーションの数々で顕著に現れています。研究者や実務者らは、LLMエージェントのプロンプトと操作をトレースすることで包括的なAIエージェント監視システムを構築しています。機械学習を活用して正確かつ効率的なeBPFプログラムの生成を支援し、XDPを利用したインカーネルデータパスをインテリジェントに構築することで、MLサービス向けのトラフィックを事前にフィルタリング・ルーティングする機能を実現しています。さらに、この組み合わせにより、GPUやLLMワークロードのゼロインストラクション・トレーシングが可能になります。これにより、アプリケーションコードを変更することなく、重要なパフォーマンスデータを取得できます。
オープンソースコミュニティとして、私たちはeBPFとAIを統合した以下のようなプロジェクトにも取り組んでいます:
- [eGPU](https://dl.acm.org/doi/10.1145/3723851.3726984) PTX/SPIR-V形式の注入により、eBPFバイトコードをGPUにオフロードします。これは当社のeBPFランタイムコア [bpftime](https://github.com/bpftime/bpftime) のメインブランチに統合されています。
- [Agentsight](https://github.com/eunomia-bpf/agentsight) LLMおよびAIエージェント(例:claudeコード、gemini-cli)のeBPFにおけるゼロインストゥルメンテーション型監視機能
- [GPTtrace](https://github.com/eunomia-bpf/GPTtrace) および [MCPtrace](https://github.com/eunomia-bpf/MCPtrace) は、LLMを活用してカーネルのトレースを支援するツールです。論文 [Kgent](https://dl.acm.org/doi/10.1145/3672197.3673434) では、Z3ベースの記号的検証とテストを組み込んだLLM駆動型eBPF合成ツールを提案しており、テストセットにおいて約80%の意味的正しさを達成しています。
## eBPF×AIの活用事例一覧(ぜひ情報提供にご協力ください!)
### 第1部:AI向けeBPF - 監視・セキュリティ・パフォーマンス
本セクションでは、eBPFが複雑なAIおよびLLMワークロードの監視、セキュリティ確保、最適化に必要な基本データをどのように提供するかについて解説します。
#### A. LLMアプリケーションのトレースとセキュリティ
AIエージェントを効果的に管理・保護するためには、ライブラリアップローブとシステムコール/ネットワークフックを組み合わせた手法で **高レベルのプロンプトと低レベルのシステム影響を紐付ける** ことが極めて重要です。LLMはインシデントの要約には活用可能ですが、厳格なセキュリティポリシーはeBPFとLSMを用いてカーネルレベルで直接実装する必要があります。
- **AgentSight**: eBPFによるTLS通信傍受とカーネルシグナル、ならびに補助的なLLM分析を統合したオープンソースソリューションで、エージェントの活動を3%未満のオーバーヘッドで追跡可能です( [arXiv](https://arxiv.org/abs/2508.02736) 参照)。
- **Groundcover LLM監視機能** :エンタープライズレベルのeBPFベース監視機能により、LLM APIコールとその内容に関する詳細な可視性を提供します( [groundcover.com](https://www.groundcover.com/ai-observability/llm-observability) )。
- **Protect AI** :Kubernetes環境内でLLMプロバイダーのトラフィックを監視し、セキュリティとコンプライアンスを確保するため設計されたeBPFエージェントです( [protectai.com](https://protectai.com/blog/why-ebpf-is-secure) )。
- **Prompt Security**: eBPFを活用してモデルスタックとベクトルデータベースの相互作用をリアルタイムで追跡し、脅威を防止します( [Prompt Security](https://www.prompt.security/blog/ebpf-at-prompt-security-the-first-no-code-security-offering-for-llm-based-applications) )。
- **eInfer**: CPU/GPUノード間でのリクエストごとのパフォーマンスを低オーバーヘッドで相関分析する、分散型LLM推論向けのeBPFベース透過型トレーサーです( [ACM Digital Library](https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3748355.3748372) )。
- **ランタイム異常検知**: 研究では、eBPFを使用してカーネルレベルのシグナルを機械学習モデルに供給し、ランサムウェアなどの異常な動作を検出する方法が示されています( [arXiv](https://arxiv.org/html/2406.14020v1) )。また、syscallシーケンスに基づくオートエンコーダを用いて、一般的なプロセス活動を検知する手法も提案されています( [evilsocket](https://www.evilsocket.net/2022/08/15/Process-behaviour-anomaly-detection-using-eBPF-and-unsupervised-learning-Autoencoders/) )。
#### B. 計測不要型GPUパフォーマンス分析手法
GPUパフォーマンス監視の実践的なアプローチとして、 **まずCUDAなどのユーザー空間ライブラリ上でeBPF uprobesを使用する方法** を採用し、このデータをNVML/ドライバメトリクスで補完した上で、より複雑なデバイス常駐型メカニズムを検討するのが適切です。
- **eGPU**: PTXインジェクションによってeBPFバイトコードをGPUにオフロードする研究プロトタイプです。デバイス常駐型のこのアプローチは、AI/GPUワークフローとの親和性が高い特徴があります( [ACM HCDS'25](https://camps.aptaracorp.com/ACM_PMS/PMS/ACM/HCDS25/10/13a8f7c0-0a7e-11f0-ada9-16bb50361d1f/OUT/hcds25-10.html) )。現在は [bpftime](https://github.com/bpftime/bpftime) のメインブランチに統合されています。
- **CUDAイベントチュートリアル** :eBPFを使用して特定のCUDA GPU操作をトレースするための包括的なガイド( [eunomia.dev](https://eunomia.dev/tutorials/47-cuda-events/) )。
- **eACGM**: eBPFカーネルイベントとNVMLデバイスメトリクスを統合し、GPUトレーニングのエンドツーエンド性能分析と障害診断を可能にするシステムです( [arXiv](https://arxiv.org/html/2506.02007v1) 掲載)。
- **GPUprobeチュートリアル** :eBPF uprobesを使用したゼロインストゥルメンテーション方式によるCUDA APIのトレース、メモリ追跡、カーネル起動プロファイリングに関するガイド集( [DEV Community](https://dev.to/ethgraham/snooping-on-your-gpu-using-ebpf-to-build-zero-instrumentation-cuda-monitoring-2hh1) 、 [Medium](https://medium.com/%40kcl17/inside-cuda-building-ebpf-uprobes-for-gpu-monitoring-449519b236ed) )。
- **CUDAイベントチュートリアル** :eBPFを使用して特定のCUDA GPU操作をトレースするための包括的なガイド( [eunomia.dev](https://eunomia.dev/tutorials/47-cuda-events/) )。
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### 第2部:AI向けeBPF - カーネルデータパスの高速化
本節では、eBPFがカーネルのデータパスにおいて果たす役割を活用し、機械学習サービス向けのデータフローを事前に処理・高速化する方法について考察します。
#### A. XDP/TCを用いたインテリジェントなトラフィック処理
最も効果的なパターンは、 **カーネル内で高性能なセンシングおよび事前フィルタリング層としてeBPFを活用し** 、一方で複雑な機械学習(ML)や大規模言語モデル(LLM)の推論処理はユーザー空間または専用ハードウェアにオフロードする方法です。
- **機械学習を活用したトラフィック処理** :研究では、汎用ハードウェア上でeBPFと機械学習を統合したインテリジェントなトラフィック処理パイプラインが実証されています( [ACMデジタルライブラリ](https://dl.acm.org/doi/10.1016/j.comnet.2024.110295) )。
- **SmartXインテリジェントセキュリティ** :BiLSTMモデルとeBPF/XDPを組み合わせたフレームワークで、高速な脅威検知とリアルタイムパケット破棄を実現します( [arXiv](https://arxiv.org/abs/2410.20244) )。
- **カーネル空間とユーザー空間のトレードオフ** :研究では、パケット分類におけるカーネル空間のeBPF/XDPとユーザー空間パイプラインの間のレイテンシとスループットのトレードオフが分析されています( [ScienceDirect](https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1389128624000203) )。
- **侵入防止システム** :DSN'24で発表された研究では、eBPF、XDP、およびTCを組み合わせることで、カーネル内ニューラルネットワークを用いたリアルタイム侵入検知・防止システムを実装する手法が示されています( [DSN 2024](https://dsn2024uq.github.io/Proceedings/pdfs/DSN2024-6rvE3SSpzFYmysif75Dkid/410500a416/410500a416.pdf) )。
- **カーネルレベルでの事前処理**: eBPFを用いてイベントを集約し機械学習サービスに提供する手法は有望ではあるものの、その効果は限定的であり、重要な性能トレードオフが存在することが明らかになっています。これらのトレードオフは慎重に測定する必要があります( [The New Stack](https://thenewstack.io/research-ebpf-not-always-a-silver-bullet-for-network-apps/) )。
#### B. カーネル内における機械学習による意思決定支援
近年の技術進歩により、事前に検証済みの機械学習モデルをeBPFを介して直接カーネル空間に組み込むことが可能となり、カーネルレベルでのインテリジェントな意思決定が実現できるようになりました。
- **eBPF^ML**: eBPFオブジェクトを介して事前検証済みの機械学習モデルを付加する提案仕様です。CPU内蔵の行列演算エンジンを活用した行列乗算ヘルパー機能なども含み、カーネル実行時の意思決定に活用可能です( [ACMデジタルライブラリ](https://dl.acm.org/doi/10.1145/3748355.3748363) )。
- **O2C**: eBPF内に決定木モデルを埋め込むことで、カーネルレベルで動的に区画化を実施する手法を示し、検証可能な「eBPF向け極小機械学習」の実現可能性を実証しています( [arXiv](https://arxiv.org/abs/2401.05641) )。
- **フローベースIDS** :フロー分類のためのeBPF内決定木ベースライン実装。「カーネルでスケッチ、モデルをユーザー空間で実行」アプローチとの比較検証用の有用な対照例です( [GitHub](https://github.com/CN-TU/machine-learning-in-ebpf) )。
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### 第3部:eBPFにおけるAIの活用 ― カーネル拡張の自動生成と検証
本セクションでは、AIおよびLLMを活用してeBPFプログラムの自動生成と検証を行う手法について詳しく解説します。これにより、カーネルプログラミングのプロセスがより効率的かつ信頼性の高いものとなります。
- **Kgent(KEN)**: Z3ベースの記号的検証とテストを組み込んだ、LLMを活用した初のeBPF合成ツールです。より信頼性の高いコード生成を実現し、テストセットにおいて約80%の意味的正しさを達成しています。( [eBPF'24](https://dl.acm.org/doi/10.1145/3672197.3673434/) 、 [arXiv](https://arxiv.org/html/2312.05531v1) )
- **SimpleBPF**: eBPF用ドメイン固有言語(DSL)とLLM生成エンジン、意味チェック機能、およびLLMベースの最適化エンジンを統合したフレームワークで、検証ツールに適したプログラムを一貫して生成します( [ratul.org](https://ratul.org/papers/ebpf2025-simplebpf.pdf) )。
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