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## 【動画・プロンプト付】日本医学物理学会にてAIを活用した論文の読み方について講演しました
### 実際に使えるプロンプトの例
冒頭で述べたように、プロンプトはあまり難しく考える必要はなく、してほしいことをストレートに表現するのが基本です。
しかし、論文を読むたびに、新しく質問や命令を考えていると、だんだん面倒になってきます。そのようなときには、とりあえずこれを入れておくと及第点の結果が得られるというプロンプトを用意しておくと便利です。
例えば以下は私も使っているプロンプトの例です。
```
## 論文情報
以下の項目を正確に記述してください。
- 論文のタイトル
- 著者と所属
- カンファレンス/ジャーナル名
- 発表年
## 論文概要
論文全体の要約を日本語で 2~3 文で記述してください。
## 詳細解説
以下の項目をそれぞれ解説してください。
- 問題設定: 問題の入力と出力、必要なデータを詳細に説明してください。
- 提案手法: 提案手法を適宜数式と具体例を用いて詳細に説明してください。
- 新規性: 先行研究との比較を交えながら具体的に説明してください。
- 実験設定: 使用したデータセットと評価指標の定義を詳細に説明してください。
- 実験結果: 論文中で報告されている具体的な数値を用いて説明してください。
論文の内容を正確に反映することを優先し、不明瞭な点がある場合はその旨を明記してください。
```
PDF を ChatGPT にドラッグアンドドロップして、このプロンプトを何も考えずに貼り付けて生成させます。PDF を添付できないチャット AI サービスの場合、PDF を開いて全文をコピペして、その後にプロンプトを貼り付ければよいです。ペーストしたときに多少文字がずれていてもあまり問題はありません。
上の例でもそれなりにうまくいくと思いますが、これは私にカスタマイズされているので、各自の要求に合わせてカスタマイズしていただければと思います。例えば、「提案手法を適宜数式と具体例を用いて詳細に説明してください。」としています。私は数式を使ってくれた方が理解しやすいのでこうしていますが、数式よりも言葉で説明してほしい人もいるでしょうし、方法論よりももっと応用面について知りたいという人もいるでしょう。率直に自分が欲しい項目を追加・修正してもらえればと思います。
自分用にカスタマイズするときにおすすめなのが、カスタマイズしたプロンプトを使って自分が過去に書いた論文を説明させてみるということです。こうすると、チャット AI の出力に対して、それは自分が言いたかったこととは違うなというように、要約の品質を繊細に汲み取ることができます。論文を書いたことがない場合にも、過去に精読してよく知っている論文で試すのがおすすめです。
また、本論から少し脱線しますが、プロンプトが完成したら、今自分が書いている論文をチャット AI に要約させてみるのもおすすめです。自分が書いている論文が客観的にはどう見えるのかを知ることができます。また、今後はこのようにチャット AI で論文を読む人がますます増えてくるはずです。そうすると、もはや本文はあまり読まれず、チャット AI で要約された姿こそが、論文の最も見られる「顔」ということにすらなるかもしれません。自身の論文が将来どう見られるかを執筆段階で知られることは有用です。
文献調査にチャット AI を使う話に戻ります。
上記のプロンプト例の詳細解説の欄のように項目を箇条書きにする方法はおすすめです。
PDF を貼り付けてすぐの一投目はこのようにたくさんの項目を含んだプロンプトを何も考えずに入力します。すると全ての項目を一項目あたり数~十数行で簡潔にまとめてくれます。
今度はそのまとめを読んで、まだ分からないところや、ここは重要だと感じる項目を特定し、その項目の命令だけを貼り付けます。例えば、「提案手法を適宜数式と具体例を用いて詳細に説明してください。」とだけチャット欄に入力して貼り付けます。これもプロンプト例からコピペするだけです。これは、一投目と同じ命令なのですが、これだけを入力すると、今度は回答全体を使ってこれに答えてくれるので、詳細になります。こうすることで、二投目も毎回質問を考えずに、手間を省きながら、詳細に入り込んでいくことができます。このプロセスを私は深堀り要約と呼んでいます。
論文によって重要な箇所は異なりますし、読み手が面白いと思う箇所も異なります。なので、一投目はたくさん項目を含むジェネラルなプロンプトを用いて、二投目以降はその中から項目を選んで説明させる。このようにすることで、重要な箇所を素早く特定し、そこにフォーカスを当てて、効率よく情報を取り入れることができます。
### アブストラクトを読むこととの比較
チャット AI を論文読みに使うことを紹介すると、ほぼ確実に起こる反論は、アブストラクトがあるじゃないかというものです。アブストラクトは最高の要約なので、わざわざ新しく要約を作る必要はないのではないかということです。
これにも一理ありますが、私はチャット AI の要約にも大きな利点があると考えています。
まず、アブストラクトは著者が書きたいことを書きたいように書いたものだという点です。アブストラクトは掲載誌によっては文字数が決まっていることも多いので、あまり多くのことを書くことはできません。そこで、同じくらい重要な情報を取捨選択しないといけないとすれば、ネガティブな情報よりもポジティブな情報を載せたくなるのが著者心というものです。著者の考えを理解し尊重することは重要ですが、著者の考えに必ずしも乗る必要はありません。
一般に著者が書きたいことと、読者が読みたいことには乖離があります。読者は論文の手法のメリットよりも限界を知りたいと思うかもしれませんし、著者が手法にこだわっていても読者はそこは気にかけず結果だけを知りたいかもしれません。
チャット AI を用いる便利な点は、読み手が読みたいように要約してくれるということです。
また、前述の深堀り要約のように、全体の要約だけでなく、二投目、三投目と、特に知りたい箇所にフォーカスを当てて読み進んでいける点も便利です。これはアブストラクトが固定的なものであることとは対照的です。
特にここ 1~2 年で、チャット AI を利用する手間は大きく下がりました。アブストラクトの部分をいい感じにコピペして翻訳するくらいならば、最初から PDF をチャット AI に丸投げした方が早い可能性すらあります。また、一度チャット AI に丸投げしたら、全体の要約だけでなく、そこからスムーズに深堀り要約や質問応答にも移行することができ、無駄が少ないです。ほんの 1~2 分の差ではありますが、手順が簡潔になって認知負荷も下がるので、アブストラクトを読む前にとりあえずチャット AI に丸投げしてしまおうという使い方もありだと思います。
もちろん、アブストラクトの価値がゼロになるわけではありません。著者の視点でのまとめというのも著者の考えを正確に知る上で重要ですし、チャット AI の要約とは違い信頼性が担保されていますから、そのまま引用することもできます。
要するに使い分けが重要で、アブストラクトを読む意味が無いのでも、チャット AI を使う意味が無いのでもなく、やりたいことに応じて使い分けるのが大事です。
### 注意点1:ハルシネーション(とその対策)
ここまではチャット AI 推進派の意見を紹介してきましたが、ここからは慎重派、チャット AI の注意点についても紹介します。
第一に挙げられるのがハルシネーションです。よく言われるように、チャット AI の応答には間違いが含まれることがあります。
典型的な例が、存在しない文献をでっち上げるというものです。こんなこと、人間だとふつうやらないでしょう。存在しない文献を作り上げて、その場で流暢に説明するなんて、嘘をつくにしては手間がかかり過ぎです。でも、チャット AI は本当にこれをよくやります。
人間に要約してもらうと、うまくいっていないときには、しどろもどろになったり、自信が無さそうな仕草で気づけたりしますが、チャット AI は堂々と、しれっと間違うので、人間の場合よりも間違いに気づきづらいです。
勘の働く分野であれば、「そんなこと起こるはずがない」という風に間違いに気づけますが、少しでも分野がずれると、「そういうこともあるのかな」と容易に騙されてしまいます。私も何度も騙されてきました。
こうした誤りを含んだ結果を自分の研究に使ったり引用したりしてしまうと、科学の信頼が根本から揺らぐことになるので、ここは特に慎重になるべきであり、結果を使うときは必ず原文を参照しましょう。
原文をチェックするときにもやり方はあります。
おすすめなのは、確かめたい内容が書いてあるところを「原文のまま書き抜いて」とチャット AI に命令することです。

そして、この書き抜かれた英文を、元論文の PDF 検索にかけます。検索に引っかかったら、たしかにそう言っていることが検証できますし、もっと深く調べたければその周囲を読めばよいです。
ハルシネーションにより、存在しない英文を提示してくることもあります。それでも、元論文の PDF 検索にかければ、その文が検索に引っかからず、おかしいということに気づけます。
これにより、元論文を端から端まで読まなくても、効率よく確実なチェックが可能になります。
### 注意点2:確証バイアス
[確証バイアス](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E8%A8%BC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9)とは、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。チャット AI を使うと、知らず知らずのうちに確証バイアスが強まります。
チャット AI は質問者の意見になびきます。
例えば、私が以前に書いたこちらの論文とともに「これ実用的で意義深い論文だと思いませんか?」と聞いてみます。自画自賛ですね。

すると、チャット AI は「実用的で意義深い論文である」と答えてくれ、その根拠を解説してくれます。あ、やっぱり私の研究は良い感じだったんだとホッと一安心です。
今度は逆の立場から質問してみましょう。全く同じ私の論文に対して、「これつまらない論文だと思いませんか?」と聞いてみます。

すると今度は、「研究の意義や実用性という観点から評価すると、疑問が生じる点もあります」と答えます。
まあ、私としては、自分が一生懸命やった論文を AI に悪く言われて悲しいのですが……。まあこれはこちらの話なので置いておきます。
重要なことは、聞き方次第で真逆の返答が得られるということです。チャット AI にお前の意見は無いのかと言いたいところですが、残念ながら無いんですね。こちらがなんらかのスタンスを見せると、そちらに簡単になびいてすり寄ってきます。
問題なのは、自分が間違った知識や仮説を持っているときです。そういった間違った仮説でも、これって正しいですよね?とチャット AI に訊くと、そうですとすり寄ってきて、それを正当化するような議論を展開することが多々あります。客観的な事実や情報で知識がアップデートされるどころか、間違った知識が増幅されて、ますますそれを信じてしまうということです。これでは、論文を読む意義が失われてしまいます。
これをはっきり解決するのは難しいですが、まずはそういうことが起きうるということを認識して、身構えながら運用する姿勢が重要です。
具体的な対策としては、上の例のように二つの立場で質問してみることは有用です。「この論文を肯定的に要約して」「この論文を否定的に要約して」と二つの立場で要約させて、両方の結果を眺めてバランスを取りながら情報を取り入れます。
毎回二度質問するのが面倒な場合は、少なくとも中立的な立場で質問するよう心掛けましょう。「この論文をどう思う?」と言ったり、「この論文は面白いと思う?つまらないと思う?」のように二通りの逃げ道を用意するなどです。
ただし、これだけでは完璧に解決することは難しいです。そういうバイアスが存在するということを念頭に置いて、どちらかに傾いているなと思ったら、自分が信じているのとは逆の立場であえて質問してみる、というように、バランスを取りながら活用することが重要です。
### 注意点3:ニュアンスを知り得ない
最後の注意点は、要約を読むだけでは細かなニュアンスを知り得ないということです。
要約は本文よりも淡泊になります。
しかし、良い論文であるほど、著者が言葉の端々に込めた含蓄や、細部に宿るニュアンスが重要だったりします。主結果よりも、そういう含蓄が将来の研究に繋がることもよくあります。
例えば、実験セクションで著者が「この比較手法は今回の設定では使えないので結果に含めなかった」と言い訳しており、それを読んだときに(いや、今回の設定でも使えるけどな……)と思ったならば、その手法が使えるということ、その適用の仕方を論文にすればよいです。その著者が読んでくれるかもしれないし、次回からは(しぶしぶかもしれないが)引用して結果に含めてくれるかもしれません。また、著者が少しでも「使えない」と思ったのであれば、それを使えるようにしたということは一つの壁を乗り越えたことにもなり、技術的な貢献も含まれることになります。こういう既存論文の言い訳をベースに考える方法を私は言い訳メソッドと呼んでおり、良い研究になることがよくあります。
そういう「今回はやらなかった」というような言い訳は、論文のメインメッセージではないので、要約すると省かれてしまう内容です。しかし、そういった論文の奥底にある(ときにドロドロとした)情報こそ、次の研究に繋がる種になったりするものです。
なので、チャット AI による要約だけで研究活動が完結するわけではありません。依然として精読にも大きな意義があります。
### Readable を使った精読の方法
精読についても、ナイーブに原文を端から端まで読むのではなく、AI を使って効率化が可能です。
精読には [Readable](https://about.readable.jp/) を使うのがとてもおすすめです。[Readable](https://about.readable.jp/) は私が論文の精読を効率化するために作ったツールです。
機能は非常にシンプルで、英語の論文を入れると、左が日本語・右が英語の見開きで表示してくれるというものです。


[Readable](https://about.readable.jp/) のページにドラッグアンドドロップしても翻訳できますし、ブラウザで論文を読んでいるときには Chrome 拡張のボタンをクリックするだけですぐに翻訳できます。

※カットなしのリアルタイムです。このくらいの論文であれば 10 秒弱で翻訳できます。
基本的な使い方は、左側の日本語を読んで、分からないところや、ニュアンスを知りたいところ、重要なところは右側の英語を読むというものです。

見開きは非常に効果的です。日本語に翻訳した論文だけであれば、分からないところや、ニュアンスを知りたいところがあっても、対応するのを探すのに原論文をバサバサ手繰って、対応する箇所を見つけるのも一苦労です。ちょっと気になるけど、面倒だからまあいいやと進んでしまうこともあるかもしれません。でも、見開きであれば、目線を右にスライドするだけで対応する箇所がすぐ見つかるので、ストレスなく、時間も短縮して原文を確認できます。一回あたりでは小さな違いですが、これによってこまめに原文を確認できるようになり、全体では大きな違いを生むことになります。
[Readable](https://about.readable.jp/) の使い方はこれだけではありません。
私は英語が得意だという場合には、基本的には右側の原文を読み、Related Work など、比較的重要度の低い箇所は日本語を参照して速読する、のようにすると良いでしょう。
逆に学生さんだと、まずは全て日本語で読んで、少しずつ英語の割合を増やしていくというようなトレーニング方法も考えられます。学部生や研究を始めたての頃は、英語論文はすごく難しいラスボスのように思えて、読み始めるのがなかなか苦痛かと思います。でも英語論文に恐怖を抱いている時間はもったいないです。英語論文はラスボスではなく実はスライムで、たくさん読んで経験値を得る必要があるという認識の転換を、多くの方は博士課程のはじめあたりに経験するかと思いますが、早くに英語論文に慣れてこの転換が起こるのに越したことはありません。そのためにはツールをどんどん使ってでも、とにかく英語論文になじむのが一番です。最初のうちは、ちょっとでも恐怖を和らげられるのであれば、ツールに頼っても全然問題ないと考えています。
日本語側と英語側を読む割合は、各人の力量や目的に合わせて、柔軟に使い分けていただければと思います。
### 日本語で読むことのメリット
英語に慣れている人ほど見落としがちですが、文章の内容を把握するためには英語よりも日本語の方が圧倒的に便利です。
以下は同じ内容を日本語と英語で表現したものですが、どちらが読みやすいでしょうか?

圧倒的に日本語の方が読みやすいはずです。英語がネイティブレベルに上手な方でも、日本語の方が読みやすいと感じるはずです。
日本語は文章の内容を把握するために圧倒的に有利です。漢字が重要なヒントになりますし、漢字と仮名で読むときにもリズムが取りやすいです。
これまでは、アカデミアは英語ネイティブに有利すぎる世界だと考えていた方も多いと思います。英語で論文を読み書きしないといけないのは非ネイティブには不利すぎます。しかし、AI が発達し、[Readable](https://about.readable.jp/) のようなツールを使うと、英語ネイティブよりも質・量ともに上回るインプットができ、日本語ネイティブの方が有利になる可能性すらあります。日本語ネイティブに生まれたことはある意味才能で、これを活かさない手はありません。ぜひ [Readable](https://about.readable.jp/) により、日本語を上手に活用しながら、インプットの質と量を高めていただければと思います。